塩山地内で仕事をしたその折、敷地内に蔵があり興味があって中を見せてもらったら大きな梁(ハリ)を見つけました。ちょうなで削られ黒くかなりの年月が経った物と思われました。その荒々しいちょうなの跡を手で触りますと先人の職人の思いが私に伝わってくるような気が致しました。時代(とき)をかけて燻され黒ずんだその梁には何とも言えぬ味と安堵感がありました。その梁の事を施主さんにお尋ねしたところ、この家を建った折に親父が先祖代々の家をつぶすのだから何か思い出にと、梁を一本とっておいた物ですよと言われましたので、では私にその梁を使わせてくれませんかとお尋ねしたところ、それは親父も爺さんもきっと喜ぶと思いますので是非使ってくださいと言われました。梁としての使命は終えたと思いますが、力のかからぬところに上手く意図的に使えばこの梁は何十年、何百年生き抜くと思います。そのちょうな跡一つ一つが、黒ずんだ色むらの模様が住む人の心に何かを与えてくれる様な気が致します。また,私もその梁を使う事により先人の匠の心、木に対する思い入れ、また物を作る心に少しでも触れられたらと思います。